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1   
    
 その瞳、そのまなざし……氷のように澄んでいて、氷を溶かすほどに熱い。  
 だから融けてしまわぬように……そんなはずはないのに……浩平は背中に氷を隠した。  
 ベッドには、さらりと流れる長い黒髪の少女が、生まれたままの姿で横たわっている。  
 映画に出てくるような、クラシカルなパイプベッド。鉄格子のように、頭と足の方にはパイプが縦に並ぶ。  
 氷の瞳をもった少女の両手首が、その真ん中のパイプに括られていた。  
 浩平もまた裸だった。  
 ベッドのわきに寄り、肢体をさらす少女を見下ろす。  
 腕を伸ばして万歳をする姿勢でこちらを見つめる少女……正確に、まるで見えているかのように、みさきは浩平に視線を向けていた。  
 浩平は、おもむろに氷を口に含んだ。  
 痛みにも似た、刺すような冷たさが広がる。  
 そのまま、浩平はベッドに上がった。  
「浩平くん……?」  
 気配を察してか、みさきの視線が浩平に合わせて動く。  
 どこか不安げな貌。  
 安心させてあげよう。  
 そんな心にもないことを考え、浩平は、彼の先輩である少女の上にまたがり、氷を含んだまま顔を近づけた。  
「きゃっ!」  
 みさきの口に氷を入れ、そのまま自分の唇でふさぐ。  
 舌をさしこみ、氷とみさきの唾液とを混ぜ合わせて、絡め取る。  
「……んん……」  
 みさきの舌も、どこかぎこちなくうごめいて、浩平の舌に絡んだ。  
 やがて、角がとれて滑らかになった氷を、吸い出すようにして、浩平は再び口の中におさめた。  
「ぅうん、浩平くん。びっくりしたよ。いきなり氷をいれてくるから……」  
 先輩らしい優しい声。  
 それを聞き流して、浩平は氷を口にくわえて半分ほど突き出すと、いきなりみさきの左胸の突起に押し当てた。  
「きゃっ!」  
 みさきは反射的に身体をよじろうとする。だが、またがっている彼の両足の力と、そして、ベッドに括られた手首のせいで、身動きをすることができない。  
「冷たい! 冷たいよ、浩平くん!」  
 ふるんと、みさきの乳房が揺れる。  
 じらすように、浩平は氷をその胸に滑らせた。  
 みさきの乳房に、鳥肌が見て取れた。  
 肌色を濃くした胸の突起が勃起して、幾重にも皺のはしる乳首へと変容した。  
 固くしこったそれを、螺旋を描くように氷でなぞる。  
「ん……は……」  
 控えめに、みさきは反応する。  
 浩平はいったん氷から口を離した。  
 氷はみさきの胸の膨らみから滑り、胸の谷間に落ちた。  
「きゃ……」  
 器用にそれを口でくわえ、今度は右の乳首に氷を這わせた。  
「……は……ふぅん……」  
 つんつん、とそれを氷でつつく。  
「あっ、あっ」  
 そのたびに、ピクンと身体が小さく跳ねる。  
 浩平は顔を上げた。  
 みさきは瞳を閉じて、はぁはぁと荒い呼吸を繰りかえしていた。  
 浩平はにやりと笑い、氷をみさきのへその上に落とした。  
「きゃぁぁ!」  
 びくんと大きく、みさきの肢体が跳ねる。  
 そのまま氷を落とさないように、浩平はみさきの脚の間に身体を入れた。  
 身をのりだして氷を口に含む。  
 そして、みさきの両脚を持って、大きく割り広げた。  
「いや!」  
 身体をよじろうとするみさき。  
 だが、手首の戒めがそれを妨げる。ぎしっぎしっとベッドが音を立てる。  
 浩平は、みさきの脚の付け根に顔を寄せた。  
 指でそっと拡げる。  
 みさきのそこは、すでに透明な潤いに満ちていた。てらてらと輝く、赤紫色に染まったみさきの花びらには、幾本かの飾り毛が張り付いている。  
 浩平はおもむろに、花びらの合わせ目にぽつんと突出している赤い芽に、氷を押し当てた。  
「きゃああ!!」  
 甲高い悲鳴があがり、脚が緊張でこわばる。  
 それを力で強引に抑え込み、浩平はそこを氷で責め立てた。  
「ひゃっ……くぅん……ふぅう……」  
 冷たさに慣れたせいか、みさきの身体から徐々に力が抜けていく。  
 いちど氷を口の中に含み、浩平は顔を離した。  
 みさきの熱さで氷が融け、それが花弁をつたって、みさき自身の蜜と混ざり合っている。  
 冷たさのせいか、それとも熱さのせいか、みさきの芽は、いつになく赤く膨れていた。  
 花弁の奥も、見たこともないくらいに溢れている。  
 浩平はそこに唇を寄せ、ビー玉ほどの大きさになってしまった氷を……その奥に押し込んだ。  
「いやあぁぁぁ!」  
 ひときわ大きな悲鳴が上がる。  
 かまわずに舌を花弁にさし入れ、これ以上は無理というところまで氷を進めてしまう。  
「やめてっ。つめたい、つめたいよ、浩平くぅん……」  
「……すごいや。先輩の熱さで、氷が融けだしてるよ」  
 大げさにそう言うと、浩平はみさきの花弁に口をつけた。  
 じゅるじゅる。  
 と、わざと下品に吸い出してみる。  
「そんな、あっ……音を立てて吸わないで……」  
 氷は出てこなかった。舌を入れてみると、ざらざらとしたそこから、ひんやりとした感覚が伝わってきた。  
 浩平は身体を起こし、熱くなった自分のそれを、冷たさの残るみさきの花弁へと沈めていった。  
「あああっ……!」  
「ふう……冷たくて……いいよ、先輩の……ここ……」  
 そうつぶやきながら、浩平は腰を動かす。  
「はぁ……ああぁ……ううん……」  
 冷たさのせいか、みさきの奥はいつもよりもざらざらとしていた。  
 それが、浩平にさらなる快感を伝える。  
「くっ……いつもよりもザラザラして、いいよ、先輩……」  
「うん……わたしも……あっ……熱いよ……浩平くんの……ああっ」  
 きゅっとすぼまる。  
 吸い込まれるように、みさきの中で蠕動がはじまった。  
「ああ……浩平くん……わたし……あっ……ああっ……」  
「先輩……おれも……くっ……」  
 強引に、無茶苦茶に、闇雲に、浩平はみさきの中を荒らし続けた。  
「あっダメ……浩平くん、ああ……いく……!」  
「ぅ……くっ……はぁあ……」  
「あっ……ああ……あああ!」  
「う……うああぁっ!」  
 みさきのもっとも深いところで、浩平は果てた。  
2 
  
「……痛かったよ、浩平くん」  
 赤い跡のついた手首をさすりながら、みさきはすねるように言った。  
「俺は先輩の言うとおりにしただけだよ」  
 悪びれずに浩平は言う。  
 みさきは口をとがらせた。  
「縛ってなんて言ってないよ。私はただ、暑いから氷を使ったらどうなるかって、言っただけなのに……」  
「でも、先輩もすごかったんだろ」  
「そんな……それは……そうだけど……」  
 みさきは顔を赤くして、うつむく。  
 それ以上なにも言い返せないのを見て、浩平はふふっと笑った。  
「でもね、浩平くん……縛っちゃうなんて、そういうことしたかったの?」  
「それもあるけど……いや、映画でそういうのがあったから、ちょっとやってみたかっただけ」  
「映画?……エッチなの?」  
「ちょっとだけ」  
「……その映画だと、女の人が、縛られて、氷で遊ばれるの?」  
「ううん、男の方が縛られて、目隠しされるんだけどね……」  
 そう何気なく言ってしまった後、浩平は、しまった、と口を手でおさえた。  
 みさきは、にっこりと笑っていた。  
「じゃあ、こんどは浩平くんの番ね」  
「やだ」  
 一応、拒んでみる。  
 すると、みさきは浩平のそばに、ずいっと寄ってきた。  
 浩平の肩に手を置いて位置を確認し、みさきは浩平に面と向かう。  
「……やろうね、浩平くん」  
☆  
「……あとは口にも何か噛ませようかな」  
 楽しそうにそう言い、みさきは手探りで浩平の口を見つけ、その中に何か布らしきものを入れた。  
 らしきもの……何かはわからない。目隠しされているから。  
 手首は、先刻までみさきがそうだったように、ベッドに括られている。  
 目隠しは、みさきと同等の状況。  
 ただひとつ違うのは、浩平の左脚までがベッドの端に固定されていることだった。  
「浩平くんが暴れて、私がベッドから落ちたら恐いから」  
 という意見に対し、完全にとは言わないまでも納得して、浩平自身が縛ったのである。  
 しかし……暴れるようなことをするつもりなのだろうか。  
……そんなことを考えているうちに目隠しをされてしまい、そして今、口に何かが詰められてしまった。  
「これでいいの……かな。浩平くん、返事をしてみて」  
 浩平は、もがもが、と音を発する。  
「うん、大丈夫。じゃ、いくよ、浩平くん……」  
 どうやって大丈夫なのを確認するのかと疑問に思っていると、身体の上にみさきがまたがってくるのを感じた。  
「どこかなぁ……」  
 さらりとしたみさきの長い髪が胸に落ち、続いて、みさきの舌らしきものが浩平の胸板に着地する。  
 そこでしばらく彷徨った後、みさきの舌は浩平の乳首に触れた。  
「みつけた……」  
 舌がうごめくたび、背中に微かに電流が流れる。  
「こんどは……」  
 みさきは舌を浩平の腹へ滑らせていく。  
 さわさわという髪の感触がくすぐったかった。  
 やがて、みさきの頬に浩平のそれが触れた。  
「……なんだろうな、これは」  
 わかっていて、からかうようにみさきは言う。  
 やや乱暴に、ぎゅっと浩平のそれが握られた。  
「ふふふ、浩平くん、緊張してるでしょう」  
 ふがが、と返す。  
「私が緊張を解いてあげるからね……」  
 ぞくり、となま暖かいものが、浩平の敏感な先端に触れた。  
 そのまま慈しむように丹念に表面を磨く。  
「ふぐっ……!」  
 浩平は思わず声をあげる。  
 みさきは身体をずらし、浩平の脚の間に身体を入れた。  
「こんどはこういうのはどうかな……」  
 何か柔らかいものが、浩平のそれを挟んだ。  
「なんだかわかる?」  
 みさきにわかるように、首を横に大きく振る。  
「……私の胸だよ」  
 みさきの胸は浩平の手から少しはみだすぐらいで、それほど大きくはない。  
 だが、それが自分のものを健気に挟みこんでいる光景を想像して、浩平の胸がきゅっと熱くなった。  
 突然、浩平の先端にちろっと舌が走る。  
 感じるままに身体を震わせてしまう。  
「ふふ、びくっとした、びくっとした」  
 みさきの乳房が、浩平のそれを包み込もうとしている。  
 しかし、大きさのせいか、何度やってもそれは叶わなかった。  
「だめかぁ……しょうがないな」  
 至福の柔らかさが去っていく。  
 みさきの掌がそれにかわった。  
 慣れた手つきで浩平のそれを上下にしごきはじめる。  
「うぐっ……ぐう……」  
 先程のが残っているのか、過度の感覚が浩平の脊髄を走った。それから逃れようと身体を逸らそうとするも、縛られた左足がそれを妨げる。  
 ふふふ、と、みさきは笑った。  
 手がとまる。  
 人肌の温かさがとってかわる。  
 みさきの口に頬張られているのだろう。  
「ううー」  
「ふぅ……はぁ……浩平くんの、熱い……」  
 舌が先端から茎のほうへ降りていく。  
 そしてまたもとへもどり、まるでアイスクリームを舐めるように、ねっとりと舌が動く。  
 手が再び浩平のそれを包み、ていねいにしごきはじめる。  
 浩平の中で、何かがぐるぐると巡っていた。  
 目隠しをされているせいか、いつもよりも敏感に感じてしまう。  
 けれど、浩平の自尊心が、それに耐えるように命令する。  
 だから、限界すれすれなのを、身体を強ばらせて、浩平はぐっと我慢した。  
「……さ、脚を開きましょうね、浩平くん」  
 みさきは浩平の自由な右脚を抱え、またを大きく開こうとした。  
 力をいれて抵抗しようとする。しかし、この体勢ではみさきを蹴ってしまうかもしれない。  
 恥ずかしさに耐え、浩平は素直にみさきにしたがった。  
 みさきの手が太ももを這う。  
 それが快楽の切れ目となり、浩平はほっと息をついた。  
 すると、浩平の後ろにある空洞の入口に、みさきの指があてがわれた。  
 ずるりと指が入り込む。  
「うぐぁあ!」  
「はい、力を抜こうね、浩平くん」  
 楽しそうにみさきはそう言い、指はさらに浩平を犯した。  
「ぐ……ぐは……ふぐぅ……うう……」  
 異物感から逃れようとして、浩平は身体をのけぞらせようとする。  
 だが、物理的にも精神的にもそれは不可能だった。  
 せめて楽になろうと、浩平は動ける限りで腰を前後に振った。  
 ふふっ、と笑うみさき。  
 その声はまるで悪魔のように聞こえた。  
 屹立したまま放置されていた浩平のそれが、みさきの口におさまる。  
 ずるっと引き抜かれ、ちゅぱっと音をたてて吸われる。  
 我慢していた欲望が、浩平の中で一気に高まった。  
「うぐっ……うぐう……」  
「いいよ、出して、浩平くん……」  
「……うう……ううう!」  
……みさきの口にすっぽりおさまるのをはかって、浩平は放出した。  
 すっかり吐き出すまで、みさきが吸いだす。  
 それが済むと、入っていた指も引き抜かれた。  
 浩平は余韻に浸ってぐったりとした。  
 みさきの気配が動く。  
 口から布が取り出される。  
 浩平は、何かを言おうと顔を上げた。  
 しかし、間髪入れずに、みさきの口に口がふさがれる。  
 どろっとして、苦い粘液が流れ込んでくる。  
 これは……!  
「……ぐっ!」  
 必至に拒もうと顔を振ろうとする。だが、みさきは浩平の頭をつかんでぎゅっと口を押し当てている。  
 やがて……浩平はそれを嚥下した。 
  
3 
  
「……女の子みたいだったよ、浩平くん」  
 みさきが愉快そうに言う。  
 浩平はみさきに背を向けていた。  
 その背中を、みさきが優しく撫でる。  
「あんまり美味しくないでしょう、あれ……でも、浩平くんのだから……」  
 そうして、みさきの額が触れ、手が浩平の身体の前に伸びてきて、ぎゅっと抱きしめる。  
「好きだよ……浩平くん……」  
「……不公平だっ」  
 浩平はぐるんと身体を反転させた。  
 いきなりのことできょとんとしているみさきがそこにいる。  
「不公平?」  
「そう、不公平」  
 子供が喧嘩するように浩平は言う。  
「どうして?」  
 小首を傾げ、みさきは尋ねる。  
「先輩、おしりはやってない」  
「えっ……」  
 絶句するみさき。その顔にはうっすらと不安げな色が浮かびはじめた。  
「だから……」  
 すばやく姿勢をいれかえ、浩平はみさきの背後をとった。  
 抱きかかえて四つん這いにさせ、そこに顔を寄せる。  
「えっ、冗談だよね……」  
 閉じ合わさったそこから、みさきの花びらが控えめにのぞいている。  
 敢えてそれに目もくれず、浩平は白い双丘に手をかけた。  
「ね、ね、冗談だよね、やめようよ」  
 割り広げると、ほとんど色のついていないみさきの蕾があった。  
 顔を近づけて、それに舌を伸ばす。  
「きゃっ、だめっ、汚いよ、浩平くん!」  
 逃れようと身体を揺するみさき。それは本気で嫌がっているように見えた。  
 だが、浩平は静かに言った。  
「先輩のだから……汚くない」  
「浩平くん……」  
……みさきの身体から力が抜けた。  
 浩平は、何度も何度も、蕾を舐めた。  
「ん……なんか変な感じ……」  
 みさきの呼吸が荒くなる。  
 浩平は人差し指をあてがった。  
 円を描くように、唾液でぬるぬるする蕾の周辺をなぞる。  
 そして、ゆっくりと指を沈めていった。  
「……はあぁぁ……」  
 みさきの甘い吐息。  
 浩平は指を動かしはじめた。  
「は……ん……ああ……」  
「どう、先輩?」  
「なんか変だよ……いいのか、わからない……」  
 やがて、蕾の締め付けが緩くなってきた。  
 それを感じ取ると、浩平は人差し指に中指を添え、優しく奥へと沈めていった。  
「ああっ……!」  
 びくんと肢体が震え、きゅっと蕾がすぼまる。  
「あっ……ん……んんん……うん……!」  
 みさきの太ももに、透明な液が伝っている。  
 その姿に、浩平の心臓がバクバクいっていた。  
「先輩……」  
 いたわるようにみさきの顔をのぞき込む。  
 みさきは、頬を赤くして乱れながら、微笑んで浩平にキスをした。  
「浩平くん……いいよ。きても……」  
「うん……ちょっと待ってて、先輩……」  
……浩平は薄い皮膜を自分のそれに被せた。  
 みさきはそのままの姿勢で、顔だけを浩平に向けていた。  
 浩平はみさきのもとへ戻り、みさきの身体を抱きかかえるように、自らの身体を重ねた。  
「いいかい、先輩……」  
「うん、いいよ……」  
 浩平は、ゆっくりと、慎重に、みさきの蕾に沈めていく。  
「うぅん……」  
 強い締め付けと抵抗があったものの、浩平のそれが徐々にみさきの身体に埋まっていく。  
「先輩、大丈夫?」  
「うん、なんとか……うぅ……ふぅ……」  
 奥の方に抵抗を感じ、浩平は進むのをやめた。  
「先輩……」  
「あはぁ……なに、浩平くん?」  
 みさきは、脂汗をかきながら笑顔で応えた。必死に耐えているのを誤魔化そうとする姿が、いとおしく見えた。  
「好きだよ、先輩……」  
「わたしも好きだよ、浩平くん……」  
 浩平はみさきの腰を抱くと、腰をうごかしはじめた。  
「ああ!……あああ!……」  
 声にならない音が、みさきの口から放たれる。  
 それは、浩平も同じだった。  
 あらぬところを犯すという背徳感。  
 強烈にして未知の締め付け。  
 それらのせいで、あっというまに浩平は限界にまで高められた。  
「先輩……俺、もう……」  
「うん、いいよ、浩平くん……きて……」  
「……くっ……ぐあ……あああ……!」  
……がくっと浩平の身体から力が抜け、みさきの肩に顔を載せる。  
「浩平くん……」  
 みさきが振り向いて手を伸ばし、浩平の顔を見つけて頬に手をやった。  
 浩平は、自らを取り戻し、落ち着いて、みさきの顔を見た。  
 汗で額に髪が張りついている、  
 その瞳から涙がこぼれ落ちるのが見えた。  
「先輩……ごめ……」  
 その言葉は、みさきの指で遮られた。  
「それは言わないでおこうよ。言うとなんか悪いことした気になっちゃうから」  
 うん、と浩平は答えるしかなかった。  
……後かたづけを終えて、浩平は毛布にくるまっていた。  
 みさきの小さな身体が、それに寄り添っている。  
「……勝てないなぁ……」  
 天井をぼんやり見上げながら、浩平はぽつりともらした。  
 ふふふふ、とみさきは笑う。  
 浩平は視線をみさきに移した。  
「かわいいけど……やっぱり年上なんだな、先輩」  
「かわいい先輩は、嫌?」  
 その言葉に、浩平はみさきの身体をぎゅっと抱きしめた。  
「そんなことない。好きだよ、かわいい先輩」  
「うん、先輩なんだから、ずっと、大事にしてね。約束」  
 浩平はみさきの唇を奪った。  
 そして、指ではなく舌を絡めて、その契りを交わしたのだった。 
  
[Nine-Half End]   
   
   
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