純粋であること/エージ
純粋であること |
text by エージ ( eijih@lares.dti.ne.jp )/ edit by 成瀬尚登
「ヤッホー、又来たよ〜」
白鳥ユキナは、その言葉と共に、アキトの屋台ラーメン屋の暖簾をくぐった。
「あり?」
ところが、居るはずのアキトの姿が無い。
そのかわりお客さんが1人だけいた。
ユキナもよく知っている人物、元ナデシコクルーのアオイジュンだ。
「………又居る訳?!」
呆れ顔でユキナは、言葉投げつけた。
ジュンは聴いてないフリをしてラーメンを口に運び続けている。
「あたしが来ると、いつもいるよねぇ………そんなにラーメン好き?」
「………好きだよ。だから来てるんじゃないか。」
「そんなに好きなんだ。ラーメン」
ユキナはニヤニヤな表情になった。
「………。」
ジュンが好きなのは、ラーメンではなくユリカである事は、ユリカを除く誰もが周知の事実。
ここまで周知の事実を当のユリカだけが知らないというのは驚異的だが、ユリカはアキト以外の男性にまったく興味が無い………というか関心がないので、当然といえば当然だ。
「でもさぁ………もう観念したら、結婚式の招待状来てるでしょ」
「6月10日………だろ?」
「ご名答………、あ、横に座るよ」
「どうぞ」
腰掛けるユキナを尻目に、ジュンは美味しそうにラーメンの汁を全部飲み干した。
「体に悪いよ………汁は全部飲まないほうがいいんじゃない?」
「いいだろ、好きなんだから………」
ジュンの言葉が、さっきのからかいに対する皮肉なのか、それとも、それ自体も真実なのか
判断がつかず戸惑うユキナ。「いいけどさ、毎日の事だからさ………。」
「心配してくれてるのかい?」
「そ、そんなんじゃないわよ。」
照れ隠しにか、ユキナはトレードマークともいえるイエローのヘアバンドをとった。
喋ると子供っぽいユキナだが、静かな横顔には大人の色が加わっている。
少し乱れた栗色の髪に手をやるユキナを、ジュンは若干の胸の漣と共に眺めていた。
「ところで、アキトさんは店ほっぽらかして何処行ったの?」
「なんか、調味料で足りないものがあるとかで、どっかいった」
「………ひょっとして、留守番頼まれてる?」
「まあね」
「ルリは?」
「今日はまだ来てないみたいだ。」
「ユリカさんは、まだ来る時間じゃないしね………。」
2人は共に腕時計をチラッと見た。19時30分。ユリカが仕事を終えて、この店に来るのは、少なくとも、20時はすぎてからだ。
「………ねえ。」
ユキナは躊躇いがちにそう切り出した。
「ん?。」
「前から聞きたかったんだけど、ジュン君、ユリカさんの何処がそんなに好きなの?」
「何処って………、難しい事聞くね。」
「そう? それだけ好きなら、さっと答えられるんじゃないの?」
「そんなことないさ………逆に好きなことが有り過ぎて、答えにくいものだよ。」
「だからぁ、そこんとこを具体的に!。」
「そうだなぁ………」
ジュンは照れくさそうに、頭へと手をやった。
「純粋なとこかなぁ………なんといっても。箱入り娘的な純粋さだけじゃなくて、人として純粋なんだよね、ユリカは。」
「人として?」
「そう、人として純粋なんだ。そうだからこそユリカは、あんなにアキト君の事を一途に好きでいられてるんだ。それは僕にとって、それは辛い事ではあるけど、そこが又、ユリカの魅力でもある………。」
「なんか難しいね。」
「ボク自身あきれてるんだけどさ、救いの無い愛だよね。ボク以外の男に気持ちを向けるユリカを見ていることが、ユリカへの愛を深めてるなんてさ。」
「………やっぱり難しいな」
「理解できない?」
「ユリカさんの純粋な所が好きなのは解るよ。バカに近い純粋さだけど、そこが、ユリカさんの最大の魅力だものね。けど………。」
「けど………ってのは正常な反応だね。」
ジュンはにっこり笑った。
自虐的な笑いではなく、純粋な笑い。
彼もまた、純粋なんだろうなとユキナは思った。
「でもさ………、ユリかさんが結婚する事になった今、ジュン君の気持ちはどうなの? 揺れてないの? ユリかさんが決定的に他の男のモノになるんだよ?」
「揺れていない………といったらウソになる。けど、仕方ない事なのかも………と変に割り切れてる面も有る。なにしろ、ユリカは一度もボクの方を向いてくれなかったんだからね………。ナデシコに乗る前、テンカワ・アキトが現れる前だって、ユリカの視界にボクは居なかったんだから………。」
「でも、ナデシコに乗らなかったら………、ユリカさんとアキトさんに接点が無かったなら………とは思わないの?」
「思わない………というか、ナデシコに乗らなかったら、今ほどユリカを好きじゃなかったかもしれない。ナデシコでのユリカは素敵だった。ユキナちゃんは見た事無いかもしれないけど、ユリカってカッコイイんだよ」
「かっこいい?」
「そう、いつもニヘラニヘラしてるけどね、スッと真顔になる瞬間があるんだ。それはユリカの才能が発露する瞬間なんだけど、ナデシコに乗るまで、ボクはあんな凛々しいユリカを見たことがなかった………。」
「へ………ぇ。」
ユキナの疑わしそうな反応に、ジュンは思わず吹き出した。
「信じられないのも解るけどね。」
「見てみたいなぁ。その瞬間」
「ボクももう一度見てみたい………けど、もう見られない方がいいのかも。」
「どうして?」
「これからやってくる、平和な世の中には、ユリカの才能は必要ないから………。」
「………そうね、ユリカさんには一生、あのバカが付くくらいノーテンキな笑顔で居てくれた方がいいね。」2人は頷きあうと、同時にポツリと零した。
「ユリカ、遅いなぁ」
「ユリカさん遅いなぁ」
つづく・・・・・・・・・ユリカとアキトの幸せな新婚生活へ、そして地球と木連の平和な時代へ
後書き
ども〜、ゆりかたん万歳!な皆様、最後まで読んで下さってありがとうございますぅ。
あ、怒ってる? ゆりかたん一回も出てこなかったから(笑)
ゆりかたんを期待してた皆様ごめんなさい。
ただね、ゆりかたんへの「愛」は詰まってるんで勘弁して下さい。
ジュン君の愛だけど(笑)
しかし、主役ジュン君 その他ユキナとは地味な配役やね(笑)
エージ