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お兄ちゃん、という呼び声が階下から聞こえてきた。
その可憐な声がすると、必ず、正樹はすべてを中断してそこへ向かう。
ゲームのコントローラーを放り出して廊下に出ると、階下の喫茶店「l'omelette(ロムレット)」の方から賑わったざわめきが聞こえてきた。
厨房に入る。
そこには誰もいなかった。
既に沸騰しきって湯気を吹き上げているポットが、火にかかったままになっている。
正樹は歩み寄って火を止めた。
「あ、お兄ちゃん、ごめんなさい……」
奥の倉庫から、パイナップルを重そうに抱えた乃絵美が現れた。
「いいって。で、どうしたんだ? こんなにお客さん……」
厨房から客席をのぞくと、上に「ご」がつく年輩のご婦人が大挙して雑談をしている。
乃絵美はパイナップルをそおっとまな板の上に下ろした。
「うん、同窓会の二次会だって聞いたよ……それで、お兄ちゃん。お店のほうを手伝ってくれないかな」
ああ、と正樹は即答し、そして、視線をそのパイナップルへと向けた。
「で、それは?」
すると、乃絵美は苦笑した。
「注文がみんな、トロピカルクリームケーキなの」
「……納得」
客席で談笑するご婦人たちを一瞥して、正樹は溜息混じりにつぶやいた。
☆
閉店したロムレットの店内で、正樹は乃絵美と客席にいた。
普段は座ることのできない椅子に、向かい合うように座っている。
テーブルの上には、チーズケーキが2つと、コーヒーと紅茶。
「……お疲れさま、お兄ちゃん」
乃絵美が微笑む。
「あ、いや……」
とりとめのない返事をして、正樹はカップを取り、コーヒーをすすった。
それは他にどこにもない、乃絵美のいれたコーヒーだった。
「ごめんな、ひとりでお店まかせちゃって……」
正樹と乃絵美の両親は、今夜は親戚の家に行っている。喫茶店のことを考えて、わざわざ平日の夕方を選んで出かけたのだったが……まさか、こんな日のこんな時間にロムレットがいそがしくなるとは思ってもいなかっただろう。正樹も同じように考えていた。閉店間際に手伝えば、それで済むと思っていた。それだけに、乃絵美に任せっきりにしていたことに責任を感じてしまう。
「ううん、いいんだよ、お兄ちゃん」
乃絵美は、正樹を気遣う口調でそう言うと、白いカップを取り上げた。琥珀色を少し薄めたような液体は、ダージリンに蜂蜜をとかした、乃絵美なりのアレンジを加えたロシアンティー。
「……お兄ちゃんと、ロムレットでお茶を飲むなんて、なんだか……変な感じがする」
「ん?」
乃絵美はすこし照れくさそうに言った。
「こうしていると、お兄ちゃんとデートしているみたいだよ」
その言葉に、正樹はコーヒーを吹き出しそうになるのを何とかこらえた。
「ま、まあな……あ、そうそう、さっきドアを閉めに行ったら、月が綺麗だったんだ」
そして、無理を承知で強引に話題を変えた。
「月?」
乃絵美が小首を傾げる。
「そ、そう、月。よく晴れててさ、満月だったんだ」
そこでコーヒーを飲んで一息つく。
乃絵美は不意に表情を曇らせた。
「月明かりって、なんだか恐い気がする」
意外な言葉に、正樹が乃絵美を見返す。
「じっと見ていると……ぼぉっとして、どこかへ連れて行かれちゃうような……」
不安げな貌で視線を落とす。
正樹はコーヒーを置き、乃絵美の肩を軽く叩いた。
「大丈夫だって、俺がついてる」
「お兄ちゃん……」
乃絵美が切ない笑顔を見せる。
その笑みに言葉をつけることができず、食べかけのケーキを口に放り込んで、おもむろに立ち上がった。
「……行っちゃうの、お兄ちゃん?」
乃絵美は蜂蜜入りの紅茶のカップを持ち、さみしそうな瞳で、じっと正樹を見つめる。
「ああ。ゲーム、やりかけだったのを、すっかり忘れてた」
「お兄ちゃん、何かに熱中すると、自分のことなんてどうでもいいって思うから……」
「大丈夫だって……乃絵美が呼んだら、すぐに来るからさ」
「……ありがとう、お兄ちゃん」
嬉しそうに、乃絵美は微笑んだ。
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肌寒さに、いつの間にか目を覚ましていた。
夢心地をひきずりながら、不審そうに辺りを見回す。
テーブル、椅子、カウンター……見慣れた調度品のすべては、正樹のよく知るロムレットの客席そのものだった。
カーテンの隙間から、彩度の落ちた月の光が射し込む。
それに導かれるように、正樹は視線を移した。
ピアノが、鳴っていた。
ベートーベン・ピアノソナタ14番「月光」第1楽章。
ピアノの前には、正樹のよく知る少女が鍵盤に指を踊らせている。
古風だが優美な服に身を包み、儚げな貌でピアノを見つめる乃絵美の姿は、やわらかい月明かりの中で、幻想的に輝いて見えた。
正樹は立ち上がり、引き寄せられるように、乃絵美の許へと歩み寄る。
微かに桃の甘い香りを感じた。
乃絵美は陶酔した貌で、脇に立った正樹を一顧だにせず、ピアノを弾きつづける。
三連符のたゆたう流れの継続。
情感の発露たるクライマックス。
低音部の主題の再提示、それに主旋律がかぶさっていき、最後の和音が響く。
余韻が、消えていく。
ふうっと深く息を吐くと、乃絵美は、黄色いリボンをわずかに揺らせながら、ゆっくりと顔を正樹の方へ向けた。
[ ■ ]
「……お兄ちゃん……」
その唇は、桃色に淡く輝いていた。
吐息……ずっと感じていた芳香、それは乃絵美の身体がただよわせる桃の甘美な香りだった。
「お兄ちゃん……」
艶やかに輝く唇が、もう一度、熱っぽく言葉を放つ。
その口許に、正樹は軽い酩酊感を味わった。
乃絵美が立ち上がる。
そして、しだれかかるように、正樹の胸に顔を埋めてきた。
はっとして、正樹は乃絵美の華奢な肩をつかみ、その身体を引きはがす。
だが、次の瞬間、正樹の身体から、力が抜けた。
がくっと体勢を崩し、前のめりになりながら床に手をついて、呆然と乃絵美を見上げる。
乃絵美のその瞳は、愛おしそうに正樹を包んでいた。
「乃絵美……?」
立ち上がろうとして身体に力を入れる。
しかし、身体に少しも力が入らない。
気持ちだけがもがきながら、正樹は乃絵美から目を離さないでいた。
すると、目の前に白い陶器の小瓶がさしだされた。
乃絵美の左手が、正樹の頬からあごへと伸びる。
なされるがままに顔を上げると、乃絵美は、その小瓶を正樹の口へと傾けた。
闇の中で飴色に輝くそれは、とろりと、口の中へ流れこんでくる。
それは、蜂蜜だった。
目を見開く正樹……乃絵美は微笑んだまま、小瓶を傾け続けた。
やがて、唇の端から蜜がこぼれ落ちる。
乃絵美は小瓶を起こし、小瓶の口からわずかにこぼれた蜂蜜を、舌を少しだして、ちろりと舐めた。
「あまい……」
そうつぶやくと、乃絵美はおもむろに正樹の前でひざを折り、正樹と目の高さを同じくする。
そして、とまどう正樹の顔を両手で包むと、乃絵美は蜜に満たされた正樹の唇に、自分の唇を重ねた。
「……ぅぐっ」
乃絵美の吐息が正樹の頬をくすぐる。
舌が口の中へ伸びてきた。
「……ちゅ……ふっ……」
舌が絡みつき、逃すまいとばかりに、むさぼるようにうごめく。
「あっ……ん……」
動きのあまり唇がずれてしまいそうになるのを無理に手で直し、なおも、乃絵美は中の蜜を吸う。
ちゅぽん……。
正樹の唇を吸いながら、乃絵美が唇を離す。
そのまま、正樹は力の入らない身体を抱きしめられた。
その時、桃の香りをより強く感じた……それは、乃絵美の芳香。
「……乃絵美……なんで、こんな……」
ようやく喉をとおった声が震える。
「お兄ちゃんに、愛してもらいたいから……」
耳許で、ささやくように言う。
「お兄ちゃんに愛してもらって……お兄ちゃんの赤ちゃんをつくるの」
乃絵美は左手で正樹の顔を横へ向けると、愕然としている正樹の頬についている蜂蜜を、舌でゆっくりと舐めとりだした。
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「な、何を言って……」
乃絵美の左手首を力まかせに握りしめ、正樹は必死に立ち上がろうとする。
だが、ひざを起こしたところで身体の力は抜け、そのまま後ろへと倒れこんだ。
床に仰向けになる。
「お兄ちゃん……」
わずかに首だけを起こすと、乃絵美が左の手首をさすりながら近寄ってくるのが見えた。
乃絵美は正樹の身体をまたぐと、そのまま腰の上で馬乗りの姿勢になった。
「お兄ちゃんの手の痕がついちゃった……」
嬉しそうに手首を正樹の目の前にかざす。そこには正樹の握った痕が微かに赤く浮かんでいた。
「お兄ちゃんにも……」
乃絵美は正樹の左の手首をとった。
唇を寄せると、そこをきつく吸い立てた。
「……お兄ちゃんにも痕がついたよ」
手首を返して、吸い立てていた箇所を正樹に見せる。
桃色のルージュの中で、そこは赤く染まっていた。
「いつかは消えちゃうかもしれないけど、でも……」
つぶやくようにそう言うと、乃絵美は正樹の左腕をふたたび取り上げ、空いていた正樹の右腕をも取り上げた。
手首を持ち替えると、その手を自分の胸へと押し当てる。
「あっ……」
布地越しに、乃絵美の胸の柔らかさが掌をつたわってくる。
ぐいぐいと、やや乱暴に、乃絵美はみずからの胸を、正樹の手でこねていった。
乃絵美の貌が、だんだんと切なさのそれに変わっていく。
「はぁ……お兄ちゃん……胸が……せつないの……」
手をとめてひとつ大きな息を吐くと、乃絵美は潤んだ瞳で正樹を見た。
「お兄ちゃん……」
腕をみずからの背にまわして結び目をほどき、慣れた手つきでエプロンを脱ぐ。
襟の黄色いリボンタイに手をかけ、リボンをとめていたボタンを片手で外す。
乃絵美の胸許が大きくはだけた。
みずからを抱きしめるように腕を交差させて両肩におく。
まるで見せつけるかのように、肩から滑らせて服をずらしていく。
そして、肩が完全に剥き出しになったところで、乃絵美は恥ずかしそうに腕を解いた。
小さな肩、腕、胸のふくらみが露わになる。
乃絵美の白い肌が、月明かりに濡れていた。
「見て、お兄ちゃん。乃絵美の胸、こんなにふくらんだんだよ……」
腕を伸ばし、今度は正樹の両方の手首をつかむと、それぞれを乃絵美のふくらみに直に押し当てた。
「お兄ちゃんがお風呂に一緒に入ってくれなくなってから……こんなに……」
すべすべとして柔らかい感触が、正樹の手の中で躍る。
布越しのときよりも激しく、乃絵美は手を揺らす。
「この胸は、お兄ちゃんの赤ちゃんのものになるけど……いまは、お兄ちゃんだけのものだよ……」
そのうちに、乃絵美の胸のふくらみの中に、ぽつんと突出した堅さが現れた。
そこを、正樹の指のつけねがこする。
「あっ!」
乃絵美が身体をのけぞらせる。
ふるん、と乃絵美の胸が、正樹の視界の中で小さく揺れた。
乃絵美は我に返り、恥ずかしそうに正樹を見返す。
「お兄ちゃん……もっと……」
ふたたび腕をとり、正樹の手を胸に押し当てる。
かたくなった胸の先端を刺激するように、正樹の指をそこにぶつける。
「あっ……ふぅ……はぁ……切ないよ、お兄ちゃん……!」
断続的な荒い呼吸を繰り返す。
やがて、乃絵美は正樹の手を下ろすと、耐えるように肩で息をした。
「はぁ……こんどは……こっち……」
正樹の手が、乃絵美のスカートの中へと導かれていく。
どうすることもできず、正樹は息をのむ。
指先が黒いスカートの中へ消えると、それは、つるんとして柔らかい何かにぶつかった。
「ン……と……」
乃絵美はわずかに腰を浮かせる。
指の先に隙間ができ、その中へと、さらに手を進めていく。
ぬるん、という感触が、いきなり手の甲につたわった。
「あっ……!」
ぴくんと乃絵美の身体が震える。
さらに腰を浮かせると、正樹の手首を反転させる。
今度は、正樹の指先が、ぬるぬるしたあたたかさに触れた。
「そこ……乃絵美の大切なところを……お兄ちゃんに、触って欲しいの……」
ぎゅっと指先が乃絵美のそこに押し当てられる。
そのままゆっくりと引き上げられる。
正樹の指は、開ききった乃絵美のそこをなぞっていき、その合わせ目に存在する乃絵美のふくらんだ芽をこすった。
「あぁん!」
正樹の上で、細い身体をよじって乃絵美は叫ぶ。
そして、なおもそこに正樹の指をあてがって、撫でさせる。
「くぅん……あん……ふう……はあ……あああ……!」
乃絵美の声が高くなっていく。
そのたびに、乃絵美のぬるりとしたものが、正樹の手がこすりつけられる。
「お兄ちゃんの手が……乃絵美の……こすってるの……」
正樹の手……乃絵美の手の動きが止まった。
スカートの中から、正樹の手が引き抜かれる。
それは月明かりの中でてらてらと輝いた。
乃絵美は正樹から視線をそらすと、スカートの端を持って、そおっとそれを上げていった。
ひざ上のストッキングの終端から、細い太ももが続く。
さらに太もものつけねを目指して、スカートがつり上げられていく。
やがて……なだらかな丘があらわれた。
へその下からなだらかな丘を描いてたどり着くそこにはわずかな茂みしかなく、普段は閉じ合わさっているはずのそれは、正樹の身体に馬乗りをしていることで大きく開かれている。
そのまま、乃絵美はひざで正樹の顔の方へと歩み寄る。
正樹の胸の上に腰をおろす。そして、ひざを開いたまま、脚を立てた。
「お兄ちゃんに、見て欲しいの……」
ためらいがちに、乃絵美の手が太もものつけねへ伸び、2本の指をその間に割り込ませると、少しずつ、正樹の前で開いていった。
乃絵美の花弁は微かに色のついた桜色をしていた。薄く小さく……それは蝶の羽のように繊細な形を保ち、その奥にひそむ泉を隠すことができないでいた。
その泉からは、今も蜜がわき出ている。正樹の指先の刺激によって、乃絵美の花びらはすっかり濡れそぼち、そのせいでキラキラと輝いていた。
「ここから、お兄ちゃんの赤ちゃんが出て来るの……」
乃絵美がさらに指をひろげる。
押し出されるように、合わせ目に隠れていた乃絵美の真珠がぽつんと突出した。
「……ここにね、お兄ちゃんから、赤ちゃんの素を入れてもらわないとだめなの……」
指で泉の口を撫でながら、乃絵美は独り言のようにそう言う。そこは少しも形が崩れてはいなかった。
「だから……」
乃絵美はみずからの花弁から手を離す。
ひざを立てて身体を起こすと、ずりずりと下がって正樹の腰の上にまたがる。
「だから……お兄ちゃんの……見たい」
そして、乃絵美は正樹のシャツのボタンに手をかけた。
V
無駄だとわかっていても、正樹は身体を起こそうとし、それがかなわないことを知る。
男物のシャツのボタンにとまどいながらも、乃絵美はつつましやかにそれを外していく。
すべてのボタンを外すと、シャツを開く。
締まった正樹の胸板がそこにあらわれる。
乃絵美は感嘆の溜息をついた。
「お兄ちゃん……きれい……」
しなやかな乃絵美の指先が正樹の胸を撫でる。
乃絵美は身体を折り、顔を近づけて、正樹の胸に頬を合わせた。
「お兄ちゃんの心臓……はやく拍ってるよ」
乃絵美の頬から、ぬくもりが伝わってくる。
すりすりと、乃絵美の頬が正樹の身体をくだっていく。
「お兄ちゃん、すごいおなかだね……」
引き締まった腹筋の段差を楽しむように、乃絵美は頬を擦り寄せていき……やがて、ジーンズへとたどりついた。
正樹はぎくりとする。
乃絵美は身体を起こすと、ためらうことなくベルトに手をかけた。
「乃絵美!」
カチャカチャと音がして、それは外される。
ジーンズのジッパーが開いていく音で、正樹は覚悟を決めた。
乃絵美のひんやりとした手が、ジーンズとトランクスの中に入り込む。
冷気が、乃絵美の手とトランクスの間から入り込む。
正樹は視線をそらせた。
乃絵美の手が動く。
ジーンズごとトランクスまでが引き下ろされ、冷気が正樹の熱くなったそこに広がっていくのを感じる。
乃絵美の手が……止まった。
「お兄ちゃん……」
正樹の屹立しきったそれは、乃絵美の鼻先で力強く脈を打っていた。
それは、正樹が、乃絵美に対して決して抱いてはいけない感情を抑えることができなかった証でもあった。
みずからの情けなさに、正樹はぎゅっと唇を噛む。
だが、乃絵美は言った。
「お兄ちゃん……うれしい……」
その想いのこもった声に、正樹は顔を上げた。
「お兄ちゃん……乃絵美のこと……愛してくれるんだね」
そう言うと、乃絵美は正樹のそれを優しく両手で包んだ。
「熱い……」
たどたどしい手つきで、正樹のそれを撫でまわす。
そのたびに強烈な電気が正樹の神経を走り、正樹の熱いものが震え、より強く脈を打つ。
「ここだけが、お兄ちゃんじゃないみたい……」
熱いまなざしで見つめていた乃絵美だったが、やがて、舌をだし、おそるおそる正樹の敏感な部分に当てた。
ぞくっという不思議な感覚が、正樹の背中を走った。
天頂へ向かって、舐め上げる。
「……お兄ちゃんの味がする……」
そうつぶやくと、乃絵美はさらに正樹のそこを幾度も舐めた。
敏感すぎるほどの快感が、そのたびに正樹を襲った。
「くっ……」
拳をつよく握る。
そのうちに、そこは乃絵美の唾液で輝きだしていた。
「……そうだ」
乃絵美は身体を後ろへ反らせ、ある物を手にして姿勢を戻した。
それは、蜂蜜の入った小瓶。
狙いを、正樹の先割れにさだめて、蜜がたらされる。
蜜の冷たさが、乃絵美に慈しまれた正樹のそこを浸していく。
先端が蜜に包まれるくらいで注ぐのをやめ、乃絵美は小瓶を脇へ置いた。
正樹のはちきれそうなそこへ、ふたたび顔を近づける。
そして、楚々として、乃絵美は正樹を小さな口の中に納めた。
「ぐっ……!」
なま暖かいとろりとした感触が、正樹の敏感な部分を逃れられないように包み込む。
「ふう……はあ……」
くちゅっという淫らな音が響いた。
まるでアイスキャンディーを舐めているかのように、乃絵美は美味しそうに正樹のそれを舐め、しごき、削り、吸い出し……。
絡みついた蜜を削り取るように、乃絵美の唇、そして舌が、正樹を刺激し続ける。
「くっ……ぐっ……くぅ……ううっ……」
正樹はただ背中を浮かせてそれに耐えるしかなかった。
[ ■ ]
やがて、乃絵美はキラキラと輝く蜜をひきながら、正樹を引き抜いた。
「……お兄ちゃんの……甘くて……美味しいよ……」
「の……乃絵美……」
その声が、ようやく喉をとおる。
快感の連続から解放され、正樹は激しい呼吸を繰り返した。
我に返ると、乃絵美はスカートをたくし上げながら、ふたたび正樹の上で馬乗りになっていた。
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「乃絵美……」
これから起こりうる光景が過ぎり、正樹は憑かれたように乃絵美を見つめる。
「いくよ、お兄ちゃん……」
乃絵美は腰をずらし、ゆっくりと、確かめるように、腰を落としていく。
「……んっ……」
ぬるぬるになった正樹の先端に、乃絵美のあたたかい花弁が触れる。
ひとつ大きく深呼吸をし、花弁の中へと正樹のそれを押し入れていく。
「……痛っ……!」
正樹の先端が締め付けの中に入り込んだところで、乃絵美は声をあげた。
「乃絵美!」
思わず正樹は叫ぶ。
「だいじょうぶだよ。お兄ちゃん……」
乃絵美は正樹に笑顔を見せた。だが、苦痛に耐えながら無理につくったその笑顔は、正樹にとってはかえって痛々しいものに感じられた。
乃絵美の腰が、一段低くなる。
「……いたい……うう……あああぁぁ……」
めりめりという音が聞こえるかのように、強烈な圧迫感が正樹を襲う。
すると、それまでスカートをたくし上げていた乃絵美の手がはなれ、正樹の胸板につっぱるように手をついた。
「はぁ……はぁ……」
苦痛に喘ぎながら、それに耐えるように肩で息をする。
そしてまた、力をぐっと込めていく。
「……あああっ!」
乃絵美は髪を振り乱した。
「……裂けちゃう! お兄ちゃんので、裂けちゃう!」
両腕を正樹の胸板に突き、悶えながら頭を垂れる。
ポタポタと涙の雫が正樹の腹の上に落ちてきた。
「もういい。やめろ、やめてくれ、乃絵美……」
その苦しみが自分のことのように正樹は悲しい視線を乃絵美に向ける。
しかし、乃絵美は顔を上げると、涙に濡れた瞳で健気にこたえた。
「痛いけど……お兄ちゃんのが……乃絵美の中に……」
正樹の手を取り、涙に濡れた頬に導く。
「お兄ちゃんの手……あたたかい……」
「乃絵美……」
しばらく痛みをこらえるようにじっとしていた乃絵美だったが、やがて、少しずつ腰を上下に揺すりはじめた。
「……ああっ、動いてる……お兄ちゃんのが、動いてるの……!」
進んでは割り拡げ、退いては削るように、正樹のそれが、乃絵美を侵食しはじめる。
きつかった乃絵美の中が、少しずつ潤いはじめてきた。
ざらざらとした乃絵美の内、そこがなめらかにこすれるようになる。
「うっ!」
正樹は思わず声をあげた。
「お兄ちゃん、いいの? 乃絵美の中、いいの?」
正樹の胸板についている手に力が入り、乃絵美の腰の動きがさらに早くなる。
「ううっ……乃絵美……やめろ……!」
ぞくぞくという悪寒にも似た快感が正樹の脊髄を駆けめぐり、耐えきれず首を振る。
「いいのね、お兄ちゃん……乃絵美も……お兄ちゃんが中で……あっ……変な……感じなの……ン……んん!」
瞳を閉じ、口を半開きにして、正樹の上で身体を躍らせている乃絵美。
乃絵美の貌は、先程までの苦痛のそれとは違っていた。
襲ってくる未知の感覚と既知の快楽に、どうしていいのかわからず、ただ弄ばれているだけの少女のそれだった。
その艶姿に、正樹の興奮はさらに高められた。
いきなり、乃絵美は、正樹のそれを一番深いところまで沈めた。
きつく、まとわりつくような感触が正樹を襲う。
「ぐはっ!」
「はあぁ……!」
喉をのぞかせて、乃絵美も悶える。
「ああ……お兄ちゃんので……いっぱいになってる……」
ぎゅっと乃絵美の手に力がこもり、一気に引き抜き、一気に貫く。
ぴちゃっという淫靡な音の繰り返し。
乃絵美の切ない溜息が漏れる。
そして、正樹もまた、快楽の淵にまで一気に迫り出されていった。
「乃絵美、やめろ! だめだ!」
「あっ……あ……お兄ちゃん……そこ……いいの……」
その悲痛な叫びを無視するかのように、乃絵美はさらに腰を動かす。
「くっ……頼む、抜いてくれ……俺は……!」
「……あっ、お兄ちゃんのが、また大きくなった……もうすぐなのかな……」
それに気づき、締め付けたまま、乃絵美はさらにぐっと腰を落とした。
びりびりという感覚が正樹の快楽を容赦なく蹂躙する。
「ぐああっ……やめ……やめろ……乃絵美……」
「きて……乃絵美の中に……いっぱい……お兄ちゃん……!」
正樹の笠の部分を乃絵美がこすり上げる。
「くううっ……あっ……もう……」
ぐぐっと突き上げられる感じがして、正樹が背中を反らす。
限界だった。それはもう高まる一方だった。
「……お兄ちゃん、きて……お兄ちゃん……お兄ちゃん!」
「ぐっ……乃絵美……ああ……うあっ……うぁぁぁあ!」
その瞬間、びくんびくんと、正樹の身体が幾度となく大きく跳ねた。
「あっ……何か入ってくるよ……あン……」
乃絵美の奥が、正樹のすべてを絞り上げるようにうごめく。
抵抗できぬまま、みずからの欲望のままに、乃絵美の奥へと放出する。
そしてすべてを出し切ると、正樹は抜け殻のように脱力して、その場に身を投げ出した。
「……ありがとう、お兄ちゃん」
乃絵美が涙声でそう言い、身体を重ねてくる。
正樹は無言だった。罪悪感が重くのしかかり、襲ってくる絶望に耐えるのに必死で、その言葉に応える気にすらなれなかった。
「私は身体が弱いけど、きっと丈夫な赤ちゃんを産むよ。お兄ちゃんみたいに、がんばり屋で、脚が速くて、そして、みんなに好かれるような子を……」
力無く、正樹は首を横に振る。
「はじめてがお兄ちゃんでよかった……これからもずっと、お兄ちゃんがいいな。お兄ちゃん……愛してる」
乃絵美が嬉しそうな笑顔で正樹の頬にキスをする。
だが、正樹の意識は、既に遠かった。やがて視界が暗くなり、そのままどこか闇へ落ちていくような気がして、それは途絶えた。
X
揺り動かされる感じがして、目が覚めた。
「……ちゃん、お兄ちゃん……」
その声に、突っ伏していた正樹は顔を上げる。
目の前には、心配そうに顔をのぞき込む乃絵美の顔があった。
「こんなところで寝ていたら、風邪をひいちゃうよ」
その可憐な貌に、正樹ははっとして思わず後ずさる。
乃絵美はきょとんとした表情を見せた。
「どうしたの、お兄ちゃん……?」
えっ……とつぶやき、正樹は唖然として周囲を見回した。
自分の部屋……こたつに入り、テレビ画面に向かっている。
画面にはゲームの画面。自分の持ち馬の表彰式が映っている。脇には投げ出された、ゲーム機のコントローラー……。
そして、ロムレットの制服を着た乃絵美が、正樹の脇でひざをついていた。
ひとつ、溜息をつく。
「ああ……何でもない」
そう言って正樹は乃絵美に笑顔を見せた。
「でも……お兄ちゃん。顔が真っ赤だよ?」
乃絵美は不思議そうな顔をして、正樹に顔を近づけてきた。
おもむろに、額を、正樹の額にあてる。
「熱は、ないみたいだね……」
「お、おい。やめろって……」
あわてて正樹が乃絵美を引きはがす。
その時、不意に既視感を感じて、正樹は身構えた。
何も起こらない……それに安心して乃絵美を見返す。
そして、それに気づき、しまったという顔をする。
乃絵美は、正樹のその邪険な態度に、悲しそうな顔をしていた。
「ごめん、乃絵美。つい、びっくりして……その……」
「お兄ちゃん……」
「心配してくれて、ありがとうな。大丈夫。俺はそんなにヤワじゃないさ」
正樹が笑いかけると、ようやく、乃絵美も微笑んだ。
「それならいいんだけど……お兄ちゃん、熱中すると、自分のこと、どうでもいいって思うから……心配なの」
「乃絵美……」
その微笑みに、正樹は心の中でもう一度、安堵の溜息をついた。
しばらくは乃絵美の顔を普通に見ていられなさそうだ、とそんな冗談めいたことを考えながら。
「それじゃ、お兄ちゃん。私はまたお店にもどるよ。ちゃんとベッドで寝てね」
そう言って、乃絵美は立ち上がった。
正樹の目の前に、白い包帯をまいた左手首が過ぎる。
ぎくっとして顔を上げる。
乃絵美は既にドアの向こうへ消えていた。
ぞくりという悪寒が背筋を過ぎていく。
それをうち払うように首を横に振って、正樹は立ち上がった。
シャツを脱ごうと手を胸の前へ上げる。
その時、不意に左手首に目が行った。
そこには絆創膏が貼ってあった。
正樹は息をのみ、そして、それに手をかけて、恐る恐るはがしていった。
そこには、はっきりと赤い痕が残っていた。確かにそれは甘い桃の香りをただよわせていたのだった。
[ Perfumed Nightmare FIN ]
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